2020年の「リスタート」

「終末時計」のように続いている小田光雄氏の「出版状況クロニクル」が、今月その針を大きく進めた。筆者が考える目安は、販売減が10%台、書籍・雑誌の返品率が50%台。これらは「持続可能性」を超えているものだ。年末には消費税が「心理的な節目」の10%となり、例の時計の針が戻る可能性はない。では「終末」とは何で、その「後」はどこへ行くのだろうか。

紙=印刷出版全盛時代の終わり

クロニクル134は、2019年5月の出版統計として、販売が書籍=388億円(10.3%減)。雑誌=367億円(11.1%減。月刊誌=291億円(9.5%減)、週刊誌=75億円(16.9%減))で最悪を更新したことを伝えた。これは、出版(書籍・雑誌)が「産業」としての体裁を維持する1兆円を大きく割って以降のペースが予想以上で、メディアとしての凝集力を失い、実質的に小売、情報(コンテンツ・通信・広告)サービスに吸収されつつある状況を示している。紙の出版が自立の象徴としての書店網を維持することは、2020年以後は困難になるだろう。

筆者が「紙の出版」中心の終わりと見る根拠は、米国の産業労働統計でも、過去10年間に出版の印刷・流通・小売部門から約半数の雇用が消えているという事実だ(死滅しつつある産業)。紙の出版は多種多様な専門職で成立っている。関連企業の「売上」だけを見ては実態を誤る。

本誌記事2018年12月20日号「"過去"が失われつつある現実(1)」で検討したが、雇用(総数と増減)、賃金上昇率、平均年収の半分が失われる「産業」は、すでに産業ではなく別の(非正規な)ものだ。B&Tが消えたのも、B&Nが漂流を続けてもニュースとならないのも、それが出版にとって現在の重大な問題ではないからだ。出版社の売上の半分以上がアマゾンに依存しているということは、こういうことだ。メディアは消えつつある産業や仕事について語ることを習慣的に忌避する。だからこの話は「話題」にならない。

活字出版の「2020年問題」

しかし、本誌が「終わり」を語るのは、これが出版の終わりではないからで、出版は現在最も重要な転換期にあり、移行がどのように行われるか、つまり生きた事業としての「遺産」を誰が、どのように「相続=継続」するかが問題だからだ。

「紙の出版」の遺産とは何だろう。不動産に注目する人もいるだろうが、それまでの出版を動かしてきた「版権」はどうなのだろうか。アマゾンがなければ意味をなさない「紙の出版」の版権の価値は、どう査定すべきだろうか。商業的利益が推定困難な「版権」はどうなるのか。同じようなことは、「明治20年問題」で木版印刷が経験した。活字出版の「2020年問題」は、いま冷静に考えるべきことだ。

われわれは、もはや出版の「未来」を語るよりは、それぞれに適応するしかない時点にいることを知っている。歴史的転換だからだ。日本はもちろん、米国も欧州も同じ方向を進み、中国は先を行こうとしている。かつて金属活字を拒否した文字大国は、すでに「デジタル」をチャンスとすることを決めた。これは軽い決断ではなかったはずだが、この集権国家が<デジタル=Web出版>を管理可能であると判断したことは重要だ。「社会性と商業性の両立」という古典的なテーマに対する一つの回答だからだ。出版の国家管理は多くの人が嫌うものだが、周回遅れの(つまり強欲な)資本主義では勝てるはずもない。とりあえず、危険な転換期を早く乗り切るためのテーマを確認しておきたい。

転換期のルール:変わらないものを拾え

  1. 出版が直面してきた問題は、何世紀も使い続けてきた「唯一のシステム」から多様なシステムの選択と使いこなしへの転換だった。当事者はそれぞれ答を見つけ出すべきだが、逆にみんなで「紙・印刷・書店の唯一のシステム」を守ろうとした。
  2. その結果、Webを使いこなせず、出版活動を衰弱させた。品質を低下させ、投資した資金と、出版に注ぎ込んだ知的成果を使えず、最も重要な著者と読者との繋がりを弱くした。
  3. 紙・印刷・書店のシステムからは、読書から評価される良書をつくることは困難ではないが、利益を上げることが難しい。
  4. 時代の変化は、新しいコンテンツ(あるいは新しい価値の再発見)を必要としている。価値(テーマ)を生み出すのは、社会的コミュニケーションである。コンテンツとコミュニケーションの新しいサイクルを共有することこそ、出版ビジネスの基本テーマである。
  5. 日本の近代出版は、個々人にとって「何が価値であるか」から出発した。コンテンツは、著者・読者・出版者が共同で「発見=創造」するものであり、与えられるものではない。価値を提案するのが著者・出版者、社会が発見・創造するものが読者が生み出す価値である。Webはそのためにあり、使い減りすることはない(逆はある)。
  6. 出版において継続的な資源となるものは、読者(関心、オーディエンス)とのつながり、テーマとコンテクスト、記録…つまりデータを通して維持される、出版サイクルの一貫性が最大の価値だ。
  7. 多くのものを失ったが、「本屋」関係者の努力でかなりのものが維持され、何よりも出版が新しい環境で新しい時代に再生された「明治20年」の経験を想起する価値はあると思う。版はモノではなく、出版のココロに残ればよい。 (鎌田、07/10/2019)

 

参考記事 (E-Book2.0 Forum掲載)

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