米国学術出版社の戦略転換(1): 紙からサービスへ

高等教育・教科書出版がこれまで数十年にわたって前提としてきたモデルは、出版社にとっても学生にとっても機能しなくなった。その結果、高等教育出版は最も破壊的な変化を経験している。変化はあらゆる方向から押し寄せており、変革の時を迎えている、と出版テクノロジー・コンサルタントのビル・ローゼンブラットが書いている (Publishers Weekly, 08/16/2019)。

教科書出版社の戦略:サービスの集中と独占

「あらゆる方向」から来ている変化とは、価格上昇で学生が耐えがたいと感じている教科書コストから生じている。それはビジネスチャンスであり、中古教科書、レンタルサービス (Chegg、Amazon)、無償コンテンツを使ったインストラクター・サービス、無償オンライン教材、海賊版まで多種多様なサービスが参入している。出版の戦略が「値上げ」だけだったことで、それは加速されてきた。

一例を挙げれば、ポール・サミュエルソンの'Economics) (1969, McGraw-Hill)のハードカバー版は、50年前の10ドルから、現在220ドルとなっており、物価調整を勘案しても優に3倍の計算だ。だが、その「戦略」は破綻した。AAPの統計では、2018年のH-Ed市場は前年度比で7%下落している。最初に戦略の見直しを始めたのは業界2位のセンゲージ社で、Cengage Unlimitedという定額制サービスを開始した(→本誌記事参照「教育系出版に広がる定額制」)。これは全カタログの書籍を自由に利用できるもので、1学期120ドル、年間で180ドルで、購入かレンタルかを個々に選択できるようにしている。いま一つの戦略は、おなじみのM&Aで、マグロウヒルとセンゲージのタイトルを加えると、残りはマクミラン、ピアソン、ワイリーということになる。統合によって定額モデルの普及が加速することは確実だろう。

デジタル時代に「出版社ファースト」は通用するか

ピアソンが先月発表した戦略はこれらとは別のもので、「デジタル・ファースト」と呼ばれる。1,500点のタイトルの更新をデジタルで継続するとともに、印刷版はレンタルのみで提供するというもの。学生は1学期40ドルでデジタル版にアクセスできる。つねに最新版にアクセスでき、著者には更新の動機を与えるのが最大の利点だが、伝統的に「版」ベースだった改訂プロセスを、内容本位のものに改める意味が大きいと考えられる。ピアソンの場合は7年を単位で更新してきたが、これは内容の賞味期限を過ぎる場合もあるからだ。

ローゼンブラット氏によれば、センゲージとピアソンの戦略の背景にあるものは、(1) 流通支配の強化(アマゾンなどの排除)、(2) 出版社のマージン維持、(3) ユーザー・データの管理、があると指摘している。まったくその通りだろう。しかし、10年あまりもデジタル化を遅らせた上に、出版社の合併による独占に終わるだけの結論では、あまりに消極的だ。すでに、大学関係者から「独占」への批判が聞かれる。これについては別に考えてみたいが、伝統的な「版権」管理を根拠としたこの「戦略」は盤石なものといえないからだ。 (鎌田、08/20/2019)

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