アマゾン「キャプション」は大出版社を「パス」

Audible は8月30日、Caption機能では当面、大手出版社が権利を保有するオーディオブックを対象としないと発表した。同社の正式な意見表明は9月13日に行われる。しかし、権利問題が発生する可能性がないコンテンツに関しては9月10日にもサービスを開始する。もともと出版社には説明はなされていたというが、出版社との「認識」には差があった可能性が強い。

出版社は21世紀を「パス」できるか

AAPと7社は、「クロス・フォーマット利用」「フェアユース」という認識は持っておらず、逆に、AIで自動生成されたいくつかの単語にも「著作権」が及ぶと考えていたようだ。つまり、オーディオ版権を有するAudibleには「文字表示」のための明示的許可を必要とする(はず)だが、Audibleは「意図的に」(AAPに)許可を求めなかったということだ。まさにその通り、メモを取るのに許可は要らないように、不要だと考えているからだ。

しかし、AAPと大出版社はナイーブに過ぎたように思われる。あるいは当事者意識を欠いているのかも知れない。Audible側は、「我々が新機能について出版社と話し合ったり協力したりしてこなかったかのように受取れる訴訟内容に驚き、失望している」とコメントしたが、原告側が問題の本質から「意図的に」目を背けていることを強調しているように見える。Google訴訟や独禁法訴訟を扱ってきたニューヨーク地裁で、歴史的な勝利を収める気はないようだ。

キャプション機能は、ユーザーにとってコンテンツの価値を高めるためのものであり、アマゾンが直接的利益を求めるものではない。アマゾンが重視するのは、それによってユーザーが共有する価値が増えれば、ユーザーの拡大(コンテンツその他の販売)につながることだ。これはWebの世界では最も基本的な「ネットワーク効果」なのだが、出版関係者は紙の「版」から直接販売されるものだけ考えているのか、需要側(外部性)にしても供給側(規模の経済)にしても、これらをビジネスに結びつけることを真剣に進めていない。

「キャプション」はコミュニケーションのコンテクスト

伝統的な出版とコミュニケーションにおける重要な要素は、「規模」であり、それは「コスト」であった。この業界のエリートが、デジタル(=海賊)に過度な怖れを抱いたり、あるいは逆にWeb(=出版)への警戒を怠ったりするのはそのためだだろう。テレビ番組でもあるように、「キャプション」は、コミュニケーションにおいて最も重要なものを伝える。コンテンツの社会的インタフェースのようなもので、その意味では、メタデータ以上に重要なものだ。これを理解しないことは、人(相手)と言葉(メッセージ)であることが軽視されていることを物語っている。

典型的なのは去年の「新潮45」事件に続く、最近の「週刊ポスト」事件だろう。Webの「ネットワーク効果」を使って拡散した情報が「炎上・自爆効果」を持つことをメディア関係者が忘れていたという話だ。狭い世間を注意深く歩いていたはずの大人しい人ほど、広い世間で派手に失敗をやらかす。キャプションはユーザーのネットワーク効果でコンテンツビジネスにも重要な機能となるだろう。それを見逃すことは、読者を見逃すことに等しい。

しかし、出版社はコンテンツの価値を最大化するのが仕事である。版に鍵をかけることではない。価値は人と社会を知る人にしか使えない。出版の本質は変わらないが、技術と知識は大きく変わった。現在経験していることは過渡期の混乱であり、活字出版でも1世紀以上続いたし、今回も簡単ではないかも知れないが、新しい出版の技術・知識・技能を整理していければ難しくないと思う。言うまでもなくデジタルとWebがあるからだ。 (鎌田、09/03/2019)

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