第71回フランクフルト・ブックフェア(FBF)は、10月16-18日に開催された。出展者は104ヵ国、7,450社(109ヵ国、7,503社=2018年)。ビジネス・デーの参加者は1.8%増。週末恒例の「コスプレ大会」の一般参加者を含めた総数は5.5%増えて30万2,367人(28万5,024人=2018年)となった。世界最大の出版ビジネス/パブリック・イベントとしての地位を守ったと言えよう。
ウィークエンドの一般参加9.2%増

週末の2日間の9.2%増は重要だ。これがなければ衰退を隠せない印象を残した可能性もある。版時代の名残りである、業界関係者(出版社、書店、エージェント、有名作家)のトレード・イベントが「読書界」を沸かせた時代は過ぎた。かつては華だった「ノーベル賞受賞者」のイベントも、数年前のイランのボイコットにあったように、「戦争と政治」の泥沼に巻き込まれて祝われることは期待できなくなった。ここ数年の欧州政治の舞台に使われるFBFに、言語芸術の価値を提示するかつての(知的・道徳的)リーダーシップはたぶんない。
それだけではなく、世界出版が最大の転換期を迎えた中で、そしてドイツの在来出版が衰退を示し、米国と欧州も同様な状態で(逆に中国が前面に登場するという)かなり危機的な状態にあって、FBFは「版の外の未来」を示すことに成功したと思われる。それは、米国市場を知るボース会長が就任以来力を入れてきた、「ストーリー・ドライブ」「オーディオブック」「メディアミックス」という路線だ。版の業界がそれらを完全に受け入れるのは容易ではないが、少なくとも若いオーディエンスを集めることの重要性は関係者に理解されたと思う。
2020年代への課題:真のグローバル化

FBFはドイツの出版産業を世界につなぎ、同時に世界の出版をリードするという二重の役割を負っている。これは世界最古のライプチッヒ見本市の衣鉢を継ぐためだが、世界の出版市場は商業出版でも科学技術出版でも欧州系が強く、米国市場を動かしてきた。そしてデジタル転換は大きな影響を及ぼしている。米国市場でデジタルが進み、それをアマゾンがリードしてきたのは、米国「市場」の支援を背景とした印象もある。
いま大陸欧州の書籍産業に影が差し、大西洋をまたぐ産業的リーダーシップも転換期を迎え、米国や日本を中心に「出版社・書店・版権」業界イベントの維持が困難になってきた中で、それらの外に「ブックファン」を開拓してきたFBFボース会長の先見性が生きている。出版は著者と読者を結ぶコミュニケーションの社会性の上で展開される、というのが筆者の持論だが、そこでは、成長と衰退のサイクルを繰返す「ビジネス=業界」から独立したところで、出版と社会の同期がとれるようにする存在が必要だ。トレードイベントの最大の役割となるのがそこだが、通常は業界の機能と一体化しているので、逆に一般社会とは乖離してしまう。Web以来、メディアと社会との乖離は拡大した。FBFは、国境や業界を超えたゲートウェイとなる必要があるだろう。◆ (鎌田、10/24/2019)
参考記事
- フランクフルト・ブックフェア公式発表記事
Frankfurter Buchmesse ends with significant increase in visitors, Frankfurt BookFair, Press Release, 10/18/2019 - FBF Press releases 2019 library
専門メディア記事
- The Bookseller Daily at Frankfurt 日報:Day One, Two, Three
- Frankfurt 2019: Big Crowds, Upbeat Industry, Social Purpose, by Porter Anderson, Publishing Perspectives, 10/21/2019
- Frankfurt trade attendance up 1.8% amid fewer exhibitors from fewer countries. What might this mean for the future of the Buchmesse?, by Mark Williams, The New Publishing Standards, 10/21/2019
- Frankfurt Book Fair 2019: Attendance Up At This Year's Fair, By Andrew Albanese, Publishers Weekly, 10/20/2019