B&Nのジェームズ・ドーントCEOが11月25日、英国ロンドンの FutureBook Live に登場し、同社のストアとオンラインの何が、なぜ「退屈」なのかを発見しなければならない、と述べて課題が短期で達成できる容易なものではないことを明確にした。本を売る職業が楽しく、やりがいのあることでないならば、「退屈」でないことは難しい。
書店は「人間性」を取戻す場となれるか
彼が本の販売において重要と考える要素は3つ。まず個性、第2に、店ごとの顧客ベースに対応した積極的な在庫管理、そして第3に顧客ニーズに応えられる有能なスタッフで、本に精通し、もとめている本を探すのを熱心に助けてくれる人の存在である。店員の人柄、品揃え、そしてキュレーション能力ということになろうか。それらは相対的に「ゆとり」のある環境と職場で培われるものだが、21世紀は人を機械に近づけ、機械を人に近づけて「ゆとり」を奪ったことは周知の通りだ。
ドーント氏は英国のウォーターストーンズを再建して、退屈しない、させない書店を実現した。しかし、英国と米国では書籍市場は大きく異なる。同じ答(方法)は通用しない可能性が強い。ドーント氏は両国の違いについて、何よりも米国市場では、書店の数が少なく、書籍販売員という職業が近年痛めつけられており、B&Nも例外ではないことだ、と答えている。
「不幸なことに、B&Nは書籍販売という職業の地位を貶めてきた」と彼は率直に述べ、彼の使命の一部は、書籍販売員の重要性を構築し直し、彼らに地域のキュレーターとしての権威を与えることだと考えていると述べた。それはウォーターストーンズでの経験で得たことだ。
21世紀のキャリアとしての「書店員」へ
それは大西洋の両側で巨大書店チェーンという、あまり人間的とは言えない環境で、まさに「人間らしさ」を取り戻し、それによって書店と書籍販売員を救う役割を担うことになったドーント氏の課題である。B&Nでの成功の見通しを聞かれた同氏は、「販売チームを機能させるようにするのに、数年は猶予が欲しい」。したがって「この伝統ある会社が成果を確認できるようになるのは2021-2022年」と期限を明確にした。
こうした小売(店舗販売業)の問題は、多くの商品で共通している。一つは「物流・情報」、いま一つは「消費者・顧客」がWebでオンラインに引寄せられたことによる変化で、これは20世紀(大量消費と都市化)がいまだに翻弄されている。ヒトとモノをつなぐ部分はもちろん、「体験」の集約もWebで行い、それによって(アマゾンのように)オンラインと店舗の品揃えやガイドの内容を最適化する方向に進化しているからだ。
重要なことは、これが (1) 店舗とオンラインの競争ではなく、(2) 人間とAIの競争でもないことである。そうすれば答は一つしかない。人間が極限まで安いコストで働くゲームの行く先は「人間の負け」である。そうすれば本を読む人間が減るしかないだろう。果てしないゲームだが、ドーント氏に期待されるのは、人間が勝つゲームとすることしかないと思う。そしてそれは不可能ではない。 ◆ (鎌田、12/03/2019)
参考記事
- James Daunt at FutureBook Live: Barnes & Noble’s ‘Crucifyingly Boring’ Stores, by Porter Anderson, Publishing Perspectives, 11/25/2019