2015年に楽天が傘下に収めた貸出型コンテンツ・ビジネスのオーバードライブ社が米国大手ファンドの手に渡ったことが発表された。同社は「シェアリング」モデルでの優良企業で知られ、「楽天経済圏」の北米における拠点となると考えられたが、別の経済圏での活動が求められることになる。
シェアリング・モデルのリーダー
今年、米国出版界ではB&N以外に大きなM&A案件はなかった、と言われていたのだが、クリスマスイブに、こんなニュースが入るとは思わなかった。それも「楽天オーバードライブ」である。買ったのは投資ファンドの Aragorn Parent(親は最大手のKKR)価格は400億円とされる。2015年に4.1億ドルで買収したと言われるから(つまり「簿価での計上」)実際の売買価格は不明だ。ニュースにしたくなかったのは楽天のほうであることは確かだ。
KKRが入ったM&Aは相当大きな背景があることを思わせる。楽天の海外コンテンツ事業では、北米と欧州の Koboと並ぶ支柱となるべき存在で、シェアリング・ビジネスにおけるポジショニングでも堅実に事業を伸ばしてきた。つまり楽天にとって後ろ向きで、逆にKKRとしては第三者を念頭に置いた「大型案件」の一部である可能性が強い。
低収益ビジネスをどう生かすか
「シェアリング」はエコシステム、あるいは「UX」による拡大が鍵とななるビジネスモデルで、メディアでの成功事例が多くないのは、コアとなるユーザーが形成しにくいためであると思われる。OverDriveは図書館という「軽くない」ユーザーから支持を得てきた、米国中西部の企業で、楽天としても期待が大きかったはずだ。金融、通信ビジネスの拡大で流動負債が増加し、帳尻が合わなくなっての売却と見られる。
M&Aで成長した企業が「健全資産」の売却に動く時は、財務に問題があることが予想され、メディア業界の変動も考える。米国ではコマースで自信を取り戻しているウォルマートなどが関心を持つと思われる。楽天は金融とコマースを組合わせるビジネスモデルだが、アマゾンは金融のリスクを最も警戒しており、これを収益手段とは考えていなかったことだ。これから低成長の時代が続きそうだが、OverDriveのような事業は最も継続性(成長性)が高いビジネスと言えるだろう。◆ (鎌田、12/26/2019)