2006年創業のWattpadは、ユーザー数8000万人を超え、北米やアジアを超えて中南米に拡大し、グローバルな「ストーリー」ビジネスのリーダーとしての地位を確立した。若者のいるところで伸びる力は生命力を感じさせる。2020年は1億という途方もない数の意味が出版界にも理解可能になると思われる。
定着した「ストーリー・プラットフォーム」
Netflixの売上における米国の比率が今年は42%を下回った。これは自然な傾向だ。映画館などの制約を受けないWebコンテンツ・ビジネスは世界に広がっている。ちょうどカナダのWattpadが、今年(アクティブユーザー)8000万人を超えたようなもので、ストーリーとWebには国境がないことを示す。Wattpadは今年の成果として、以下のような数字を強調している。
アクティブ・オーディエンス:月間8000万人
- 1日平均読書時間:37分
- 月間消費時間230億分
- オーディエンスの90%がZ世代かミレニアル世代
これらは「売上」や「部数」ではなく、会員とともにシェアした人数や時間こそが誇るべきものだという意味で、営業成績を前面に出さないのが同社のスタイルだ。コンテンツ関係では、映像プロダクションの Wattpad Studioが受賞した作品のリストや提携TV会社の視聴者などが強調され、出版は目立たない。Wattpadはコンテンツを生み出す「ストーリー」を著者と読者、パートナーが共有するプラットフォームであるという考えだからだ。オーディエンスの若さは、成長力と持続性を示す。かつての日本の出版社が「学年雑誌」を事業の柱にしたことを想起させる。
「カナダ発」世界戦略の成功
Wattpadはトロントの本社のほかに、ロンドン、ロサンゼルス、ニューヨーク、香港、ムンバイ、ジャカルタ、マニラにオフィスを持つが、新たにカナダ東海岸のハリファックス地域都市圏 (HRM)に第2オフィスを設置した。『赤毛のアン』の地にほど近い、新興の人口集中地域である。移民に開放的なカナダの環境は、途上国から優秀な学生を受け入れ、そのまま出身国の市場開発に生かす戦略を取りやすい。そうした巧みな戦略性は、まったくWebネイティブの発想だ。
出版はグローバルな印象があるが、基本的に国内市場の規模が市場の性格を決めていた。大西洋を越えた「英語圏市場」が生まれたのは第2次大戦後に過ぎない。米国はクリエイターを国産化し、海外市場を拡大するのに移民と教育と時間を必要とした。紙の市場をグローバル化するのは途方もなく困難だ。輸入された印刷本は「贅沢品」に近く、自国語の市場を持つ国は「先進国」に限られる。出版市場の偏り、あるいは大国「インド」における単一の出版市場の不在は、言語と言語商品のを示している。しかしWebはそうした制約を受けない。Wattpadの成功はWeb出版の潜在力である。日本に出来ないことはない。◆ (鎌田、12/19/2019)