Good eReaderのマイケル・コズロウスキ氏は、こう書いている。「誰もがE-Bookが紙を滅ぼすだろうと予想した2010年代の10年間について、歴史の年代記はデジタル販売がついにそれを脅かすことはなかったと綴るだろう」。主要出版社は、E-Bookからの四半期売上を総収入の20%以下に固定した。オーディオブックは上昇したが、ハードカバーとペーパーバックと比べれば、ほんのバケツの一滴。いったい何が起きたのだろう。
ほんとうに紙は生き残ったのか
アマゾンKindleが登場した最初の5年間、それはパラダイム・シフトを予感させるに十分だった。全米最大の書店 B&NがNookを出し、カナダのKoboが続いた。2010-13年は各国で「Kindle」タイプのE-Readerとストアが続いた。E-Bookは売れに売れた。それはE-Bookが卸価格でストアに販売されたからだ。アマゾンはKindleを売るためにそれ以下で販売した、とコズロウスキ氏は言う。出版社は儲かったが、Kindleの販売に協力することで「過分な報酬」な貰うようで、心中穏やかではなかった。長年のパートナーであった書店が苦しんだからだ。紙はAmazon、E-BookはKindle。いずれにせよアマゾンだ。
この状況は、アップルのiPadで救われ、小売価格を固定させることが可能となった。自由競争に違反する禁忌だが、出版社は莫大な売り上げをもたらしてくれるアマゾンを「謝絶」するのだから、そちらにまで気が回らなかったのだろう。2012-13年、司法省の介入で出版社は完敗する。これは「戦略的失敗」であり、そのコストは幾重にも出版社を拘束している。アップルとビッグファイブは「自由主義と消費者の敵」とされたのだ。
「アメリカ合衆国対アップル事件」の傷跡
汚名を着せられ、故人となった「白馬の騎士」としては、これほど不本意なことはなく、善玉となったアマゾンとしては笑いが止まらない事態。コズロウスキ氏は「アメリカ合衆国対アップル社事件」(法律的にそう呼ばれる)は、この10年間の出版の機能停止状態を凝結(encapsulate the dysfunction)させた、と述べている。適切な表現だろう。そして、この決着(2014年体制)がその後のE-Bookの「凍結された」6年間を生んだ。正確に言えば、「2014年を境に、この業界での統計は共有されなくなった」と言うべきだろう。これを「2014年体制」と呼ぼう。出版社にすれば、談合の対象がアップルから、アマゾンに代わったのだ。
以後、E-Bookが固定価格、印刷本は自由価格のまま、という「変則ねじれ」状態となり、アマゾンは印刷本価格をコントロールすることで両市場を完全に支配することが可能になる。独占状態に近いアマゾンが最も正確な数字を得ている状態を出版社が認めている限り、「データガイ」の仕事はない。しかし、こんなことで出版の歴史は終わらない。それは紙とE-Bookだけが本ではないから、Web-BookあるいはWeb=ブックがさらに存在を大きくしているからだ。E-Bookは紙を滅ぼす者ではなかった。では何だったか。→つづく ◆ (鎌田、12/25/2019)