Audible Captionsの拡張/著作権をめぐって、出版社とオーディオ・ストアが争う最初の訴訟となった米国の事件は、予想通り「和解」に向かっているようだ。12月27日、双方の弁護士はともに、10月末に始まった交渉が順調に進んでいる旨を担当判事に報告したことを発表した。1月13日までには双方満足する合意に達する、としている。
紛争化を回避した背景
「紛れもない書作権侵害」vs.「フェアユースに基づき、オーディオ体験を拡張」という双方の主張は、フェアユースという原理を争うのでない限り、和解は遠くないという見方が強かったが、やはり「条件」での決着となったようだ。詳細は明らかにされていない。双方はオーディオブック市場における大口取引先であり、利害は一致しているからだ。
成長を続ける音声出版市場において法廷が必要となるのは、著作物の copyright (複製権)という、「伝統概念」の解釈と境界に関する社会的合意を法律的に決着させるべき、と当事者たちが判断した場合だ。E-Bookの価格問題では、2012-13年にかけて出版社が不本意な形(独禁法違反)で司法当局から控訴される展開となり、まさに最悪の結果を招いた。
2014年体制の下で、大出版社はアマゾンに対する恐怖を捨て、書店の「小康」とオーディオブックでの利益を安定させることに集中している。新しい10年は、「印刷本・活字本・音声本」の3つのエンジンを駆動する新「総合出版社」を明確にすることになる。大出版社にとって重要なことは、書店でのシェアではなく、Webマーケティングがリードするビッグ・オーディエンスである。この新戦略の鍵となるのは、言うまでもなく、これまでバラバラだったエンジンをバランスよく回すことだが、これまでの10年は「紙 vs. デジタル」を煽り、煽られて、バランスとはほど遠いところにいた。
デジタル戦略の再構築への一歩
Captionsは、文字=音声の境界にあり、AI時代の本の可能性を開拓する、アマゾンの戦略的インタフェースだ。その立上げに出版業界、著者団体が「とりあえず」反対姿勢を見せたのは、文字通りというよりは、新しく生まれる不確定な利益機会を確保するためで、いきなり「デジタル=価格」という土俵を設定した戦略的誤りの反省であるとみられる。
AIはグーテンベルク以来の「版」とは次元が違い、著者/読者の意識と行動と動的に関わる。「メディアの重層性」というマクルーハンの「予言」がホログラムのような現実になる。出版関係者は「版の唯一性」の管理から、むしろ「版の多態性」の管理の能力が問われる。バーチャル時代の「版/権」の帰趨は、著者/読者の間の「ボトルネック」機能の物理的制覇ではなく、より技術的心理的なものになると思われる。版の出版は博打、政治、軍事に近い、オトコの世界だった印象が強いが、これからの出版は、より「女性的」であることを期待している。◆ (鎌田、01/07/2019)