耳で読む読書(オーディオブック)が欧米で予想以上に市場を拡大しており、出版界では「次の段階」への対応に関心が移っている。これまで「読者」層と考えて対応してきたのとは違う「新しい市場」を発見したと思い始めているからだ。「読書」が長期的に音声に移行しつつあるならば、相応の対応を考えなければならないだろう。
活字市場の商品価値は減少している
国際的な調査会社のHarris Interactiveによれば、2019年に1回以上オーディオブックを聴いたという人は、英国人の15%に達した。市場は43%拡大し、6,900万ポンド(約100億円)となった。これを「大規模な変化の予兆」として見る向きは多い。米国の2019年の数字はたぶん来月の発表になるが、100億ドルを超えることは確実だ。これを業界(AAP)が「E-Bookと並ぶ」と発表するか、あるいは「デジタルの合計が40%」と発表するかに注目しているが、少なくとも経営者はそうした認識を持っていることは間違いない。
10年前の人々の関心事は、「紙かE-Bookか?」だった。本はまず第一に「活字」だったからであり、「紙のシェア」が30%を切って街から書店が激減する事態を最悪としていたからだ。それが避けられた陰には、アマゾンの協力があったことは本誌が強調してきた。いまや在来出版社の「紙のシェア」は80%を超えて安定しているが、肝心の「出版」そのものが停滞するなか、書店の売上が減少するのとは裏腹に、アマゾンのシェアは危険なレベルを超える状態だ。音声出版の急成長はこうした状況の中で考えなければならないだろう。
メディアは「キャプチャ」に注目
これまでオーディオの成長は「驚き」以上のものではなく、成功した印刷タイトルに音声化投資をして、回収率に注目するというものだったと思われる。A-BookはE-Bookとはコスト構造が異なり、初期投資(録音製作)が余計に必要な代わりに、在庫が不要なのでその後の利益率は大きい。つまり人気作家を擁する「大出版社向きのフォーマット」なのだ。
当初は「デジタル恐怖症」から、A-Bookが書店に影響しないことに注目して投資してきた出版社は、(1) なぜ読者はオーディオを選ぶのか、(2) デジタル時代の「紙=活字」の商品性が落ちているのではないか、を考え始めている。さらに、それらの先に、(3) YouTubeで始まった「キャプション」の市場化は、A-Bookの「爆発」の予兆につながるのではないかということがある。
国際メディア資本の傘下にある大出版社は、すでに停滞する「活字出版」への対応を変え、文字/音声の変換を可能とする複合インタフェースとサービスへ向かっていくものと思われる。活字(版と版権)の商品性は確実に落ちている。採算性の低下は市場規模の低下を意味し、出版社は広告ビジネスへの移行に着手するだろう。10年前と違うことは、時間は在来出版社にとってますます不利であり、保有資産は減価しているということだ。◆ (鎌田、01/30/2020)