アマゾンは、2012年以来 KDP Global Fundが著者に支払った金額累計が11億ドルに達したことを明らかにした。Kindleエコシステムを出版界に構築したことを数字で表したものと言える。2019年の「年間3億ドル」という発表とともに、出版社によらない、Kindle/デジタル・オリジナルの市場が不動のものとなったことを実証した。
出版における連続性と自由
「出版」の「デジタル」転換がどう進むのかを考えるために本誌をスタートして早10年だが、いまだにそれは一見して分かる姿をとっていない。人々が「出版社・取次・書店」を通過したものを本と考えてきたからだ。「デジタル」をE-Readerのような「実体」のように考えてきたからだ。しかしアマゾンは違うものを考えていた。何よりもは過去・現在と連続し、ディスラプトさせないこと、そして過去からも自由であることだ。前者は「責任」であり、後者は「発展」を約束するものだと思う。さらにもう一つ「ビジネス」からも自由であることによって「出版」は完全なものとなるだろう。Kindleモデルは過去12年あまりで、出版におけるデジタルの可能性を実証し、発展させてきた。
筆者は先月「Kindle Unlimitedの意味」を、(1)自主出版と(2)市場の再創造の2点から検討し、これが持続可能な出版モデルであると結論した。自主出版モデルが、フォーマット(紙、E-Book、オーディオブック、…)に依らず、チャンネル(販売、購読、…)に依らず、(出版者の意図を市場において)実現できることが証明されたからだ。少なくとも伝統的出版の世界最大の市場である米国で、このモデルは成立した。これが意識されないできたのは、ほとんどアマゾンのサービスとして提供され、そして在来出版と連続して存在し、アマゾンという巨大なコマース・プラットフォームの中に存在するからだ。
しかし、グーテンベルク出版がアマゾンの宇宙の中に出版したわけではない。むしろ新しい出版の周辺にコマースの空間が形成されるようにアマゾンが設計し、構築したのだ。このことを認めなければ、アマゾンと競争することはできないだろう。
成長を続ける「Kindleの銀河」
筆者は、「出版社・取次・書店」に依存せず、しかもディスラプトさせずにWeb上に形成された新しい出版のエコシステムを、仮に「Kindleの銀河」と名づける。これは排他的なものではなく、15世紀に活字印刷機とともに生まれた旧いエコシステムを継承するインタフェースを持っている。21世紀の出版の原型と考えることができる。
「Kindleの銀河」は、著者と読者が動かす出版活動(制作、出版、販売、購読を中心とする)と支援サービス(印刷、配送、データ変換、その他)で機能し、循環的に拡大する。
- エコシステムに参加する著者出版者(KDP)とそのタイトル
- KDPタイトルの販売市場 (Kindle、Amazon.com)
- KDPの定額/無料配信システム(Kindle Unlimited)と精算システム(Global Fund)
- プライムの消費エコシステム
「出版社・取次・書店」を通さない「自主出版」は、「正規」の統計には載らないのだが、アマゾンは、2018年1年間の出版コンテンツ(印刷本、E-Book、オーディオブック)の版権料収入で、5万ドルを超えた自主出版者が数千名、10万ドル超を稼いだ著者は1000名以上と発表している。KDPを合計すると、著者の収入は数億ドルに達した勘定となる。
「ベストセラー作家」以上に、著述活動で生計を立てられる水準(5万ドル以上)を安定させられる著者が千人、その裾野も1万人となれば、社会的な「産業」として機能すると考えられる。数億ドルを売上げる出版社は少なくないが、版権料はそれほど多くない。出版における「個の力」を示したことに、この銀河システムの意義がある。アマゾン(Kindle)がそれを実証したことは確かだ。新聞も雑誌も書かないのは「アマゾン」だからだろう。◆ (鎌田、02/04/2020)