米国アマゾンは、アシェット社のKindleタイトル100点の近刊ベストセラー書などを5ドル以下で販売するステルス・セールを開始した。2016-2019年が大半で、2013年刊も一部含まれている。大手出版社がこうした特価販売に乗りだす例は少ない。今後は、結果を見てE-Bookの価格マーケティングを活発化させるだろう。
「非常事態」とE-Book
コロナ禍のさ中でも、米国1-3月はE-Bookの販売不振が続いている。これは、(1)新刊不在、(2)企画(セール)不在といった事情のためだ。E-Bookの割引販売をせず、販促の経験の乏しい出版社は、パートナーを必要とする。とくにアシェットがアマゾンと提携するのは今回が初めてと思われる。E-Bookの販売では、まず価格のオペレーションが基本なのだが、出版社にはたぶん価格のプロはいないだろう。
現在、B&Nをはじめとして北米の書店、図書館の大半が閉店状態で、アマゾンの通販も書籍は1週間以上の遅配で、本を購入して読む方法はE-Bookに限られる。この状態があと半年は続くとすると、恒久的な対応を考えなければならない。つまり、E-Bookと宅配に依存するしかないことになる。アシェットはアマゾンとの間で何度か紛争を起こしたが、結局勝者はアマゾンであり、アシェットにも損はなかった。E-Bookの商品性を毀損するだけのことだが、それを納得してのことだったからだ。
コロナでE-Bookは見直されたか
2014年以降、米国の大手出版社のE-Bookの契約は、印刷本のようなディストリビューター方式(販売差益)ではなく、エージェンシー・プライシング方式(手数料)しか選べなくなっている。アマゾンは最大多数の顧客への販売を可能にする価格を希望するが、出版社はE-Bookでのエージェンシー制の復活に固執した。その結果、E-Bookの市場は「停止」状態に置かれて消費者の関心を失ってしまった。フォーマットとしてのE-Bookはコロナ禍で出版社にとっても重要な存在となっているが、復活するには、価格マーケティングから再開しなければならない。
出版社とアマゾン(あるいはデジタルパートナー)との協力がどうなるとしても、当分の間E-Bookが大出版社にとっても商品ということになりそうだ。年内にはアマゾン、ビッグファイブ、るいはそれぞれがE-Bookの位置づけが改訂されると思われる。◆ (鎌田、05/14/2020)
- Over 100 bestselling Kindle books from Hachette are on sale for $5, By Michael Kozlowski、Good eReader, 05/11/2020