5月1日、米国の教育出版大手のマグロウ・ヒル (McGraw-Hill Education :略称MGH-E)とセンゲージ (Cengage)の合併が、司法当局の承認を得られたことが発表され、年内には教育出版におけるデジタル出版というステージが見えてきそうだ (PW, 05/04/2020)。大学教科書の電子化の段階でストップしていたことで、教育・学術分野の出版が停滞していたが、ようやく動き出す。
「ものの本」はなぜ、どう変わるか?
新会社の課題はデジタルのビジネスモデルとサービスモデルで、待たれるのは「プラン」だが、今回の発表には歴史的なものはなく、売上30億ドルを超える新会社の方向性は、教育者・ラーニング重視ということ以上には分からない。ここでは現代における「教育・学習出版」の位置づけと「デジタル」の役割について概観してみようと思う。コロナによる世界的ブレイクでもあり、よいタイミングだと思うからだ。
もともとの「合併」は、寡占体制の強化によるデジタル移行期の市場変動のコントロールにある。アマゾン、Googleを含むテクノロジー企業がコントロールすべき相手だ。不確定要素は、グローバリゼーションと中国、インドとなるだろう。
日本でも江戸時代には、内容的価値が変わらない辞書や経書などが「ものの本」と呼ばれた。「読む」だけの本が「読本」である。著者と読者の「飯のタネ」となることが期待される大学教科書(高等技術書)は、現代における代表的な「ものの本」ということも出来る。しかし、この分野は時代や読者の変化に合わせた改訂・新版が多いわりに、内容的な進化が少ない。21世紀になって目につくものは「読本」であって、コンテンツの豊富化ではない。その理由の多くは「紙の経済」に依存した出版であることは、読者も知る通り。
本と出版のイノベーションへ
筆者は40年近く前に、ニューヨークのMG-H社を訪問して、当時のデジタル技術をみせてもらったことがある。技術と商品、サービスのギャップは永遠に近い時間で隔てられるものなのか、という実感は、Webの登場で過去のものとなったように思えたが、そう簡単でもなかった。「大学教科書」という、最も高価で、特殊な付加価値を持つ本を扱うMG-Hは、これまでもっぱら合併に全精力を費やしてきた。そのかん、デジタル化はほとんど進まなかった。「教科書問題の解決」に関係者の数世代もかけてきたわけだ。
コンテンツ内容、価格・チャネル、サービス、読者などを「デジタル出版」のシステム(全体/部分)として同時に構想するためには、「デジタル出版」を全体として再構築できる機会を待つしかない。Webはまさに最高の環境であったのだが、なんとそこにはアマゾンが座っていたのだ。おそらくそれによって大出版社のプランは揺れに揺れたことは想像に難くない。それに、高等教育と大学教育、研究開発、参考書 (Reference work)出版は、教育とテクノロジー(ガジェット)が一般に普及したことで、大学や学校だけに限らない(緩い科学・技術)市場が拡大しているのだが、この分野は、研究開発の割には商品化が遅れている。ともかく、商業出版(フィクション)よりも広大な市場が広がっている。→ つづく ◆ (鎌田、05/070/2020)