定額制とオーディオブックに軸足を置くスウェーデンの Storytel (ストーリーテル)社の20年1Q決算は、定額ユーザーの38%増加と売上の45%増加によって4億2900万クローネ(4,400万米ドル)を記録した。有償ユーザー数は7万1400人増の154万人。ヨーナス・テランダーCEOは、株主報告で「世界的コロナ状況なしでこの1Qはあり得なかった。」と述べている。
北欧風「デジタル読書」時代
北欧三国の有償会員平均は78万5,800人、うち北欧以外は36.9万人となっている。Q2予測はグローバル予測が125万人、年次ベースでは43%(4,700万ドル)。同社は1月に新株を発行したばかりだが、当初の見通しでは印刷本に収益を依存した予想を立てており、デジタルなしでは計画の達成は不可能であったことは間違いない。暴風を衝いて敢えて出航したはずが、順風を受ける形となった。しかしデジタルのメリットをフルに発揮するモデルに賭けるのは自然な発想であり、むしろ紙のほうが突風で吹き飛んだということだろう。
もともと定額モデルは、現金出費を抑制し、「本は買うより借りる」というドイツや北欧のライフスタイルに最適と言われていた。Storytel はE-Bookと定額に最適化したマーケティング・モデルを準備したもので、オーディオブックを最初から重視している点も「北欧型」の特徴と言えるだろう。北欧は相対的にアマゾンを好まない消費者が多いという点でも、緻密なマーケティングとライブラリの設計を最適化する方法に向いていたのだろう。次の段階は、中欧を中心とした大陸展開のようだ。それにはアジアも含まれる。
デジタルは「アンリミテッド」か?
コロナ後は、「物理的接触を回避する」傾向も加わり、定額デジタル、「文字/オーディオが標準的」になる。価格/サービスの競争が活発化するだろう。北欧は中東欧と市場的に近く、欧州市場をリードする存在ではなかったが、Storytel もBookBeatも「多国語を拡大機会とする」と考えており、伝統的な欧州市場から離れた存在だったことをプラスと考えているようだ。グーテンベルク時代は、地理的・言語的・文化的隣接性が重要な意味を持っていた。コマースは市場を一つにしたが、デジタルは「隣接性」の意味を変えるのかも知れない。
2020年代は、デジタルにとっての「新しい風」を呼込むことを予感させたが、それは過去の延長ではなかったようだ。版から印刷と運送の繋がりが薄れたと同時に、書店から「物理的実体」としての「本」の影も消えた。あと半年も続けば、出版の風景はどうあなるのだろうか。すくなくとも、人々は本を書き、本を読むことを止めない。しかし読み方はまったく同じではないだろう。◆ (鎌田、05/14/2020)