フランクフルト・ブックフェア (FBF)のユルゲン・ボース総裁(写真)は、今秋の開催について、通常の(オリンピック的な)開催形式に替えて、「まったく違う形式」での開催を検討する意思を表明した。数十万人規模が、大小様々な無数のセッションに参加する、オンライン主体に切替えるというものだが、全く想像もできない「体験共有」イベントの仮想化はどう実現されるだろうか。
大規模オンライン商談イベントは可能か
10月14-18日の開催に関する決定は、6月初旬から4-6週間で発表される。最初に確認しておくと、昨年のイベントは、参加者が30万2,267人。一般客が12万7,790人、出版関係者は17万4,477人で、米国2.1%、アジア4.8%、ドイツ以外の欧州圏が22%、ドイツ国内が70.6%だった。交通アクセスだけでも、公衆衛生上の安全確保は不可能で、「コロナ第ニ波」の対応どころではない。
少なくとも今年のブック・イベントで、開催が確認されたものはない。それでも検討を表明したのは、仮に今年が無理だとしても、来年のイメージを提示/共有しておきたいと思ったのだろう。つまり、来年になっても従来型への復帰はさらに遠のくことが確実だからだ。
フェアの骨格は、Literary Agents & Scouts Centre (LitAg)が管理・販売する、展示会場および商談スペースの販売から成る。つまり、LitAgは版権をめぐる当事者の双方のニーズを知り、必要なシステムとサービスを提供する立場にある。昨年実績では40ヵ国の355のエージェンシー、780のLitAgのエージェントをホストした。
FBFは近年、版権取引とコミュニケーションのバーチャル化に力を入れており、Web会議の経験は、FBF、LitAg、エージェンシーの三者ともに深まっていたと思われる。今年いきなり、というのは論外だ。筆者の経験がある10年以上前から、Web会議の技術は存在するが、商談に使えるイベントの普及は遅かった。マーケット・リーダーが中国系のZoomと聞いて驚いた。つまり航空運賃のほうが通信より安かったか、会議システムの問題(セキュリティや通信品質、付加サービス)が当時と比べて改善しなかったのだろう。
「オリンピック型イベント」からテクノロジー・イベントへ
皮肉なことに中国の力で5G通信技術が進化し、米中関係が最悪な状況でコロナ禍が世界を襲ったことで、Web会議に期待する本番となりそうだ。FBFが必要とする規模のWeb商談は、これまでなかったものだろう。欧米のビジネスでは、日本に比べて「テレ・イベント」の使い方がうまいが、Web会議はそう進化していなかった。数百年前から「人から人に」というビジネスに慣れていたからだ。
しかし、Web会議が商談の質と生産性を改善する余地は大きく、筆者などは、おそらく優れた(数少ない)エージェントや出版社のトレーダーの存在が、会議システムを不要としていたのではないかと疑っている。しかし問題は、可能かどうかではなく、ブックフェアの90%以上を実現し、残りはフォローアップで補う、といった方法しかないだろう。
FBFの実体が、イベントやフェスタではなくトレード活動であったとすれば、「世界最大」のブックビジネス・イベントという古典的なBookイベントは、それ自体が伝統的な役割を果たしたと言ってよいだろう。ボース総裁は、「近代オリンピック」がそうであったように、古代-近代-現代を商業イベントの延長として繋ぐには物理的、社会的コストの負担が限界を超えているという考えがあるはずだ。「グーテンベルク・スペクタクル」は終わり、現在必要な機能は、情報・体験で補完可能な仮想イベントをゼロから企画するものだろう。◆ (鎌田、05/14/2020)
参考記事
- Frankfurt's Boos Promises a Reinvented Book Fair By Ed Nawotka, May 06, 2020, Publisher's Weekly