いまや世界最大・最後の書店の経営者となっているB&NとWaterstonesのジェームズ・ドーント氏は、書店の再開と合わせて「どっさりと大量の」E-Bookを販売する準備をしていることを、英国のThe Booksellerとのインタビューで明らかにした。詳細はまだ不明だが、Nookの米英での開始を目指すものと見られる。間に合えば…。
出版のディスラプトが起きる時
書店の「ロックアウト」は、伝統的に紙の出版に依存してきた欧米出版界に大打撃を与えた。再開できれば何も問題はない、としているが、そうであればこの時期に「アンチE-Book派」とされてきた「看板」を降ろしてまでE-Bookを始める必要はなかったろう。コロナは誤算であり、Nookを書店事業の重要な柱とする以外にB&Nの生き残りはなくなったのであろう。
Waterstonesは一時期、E-Readerのデバイスを販売していたことがある。Kindleを販売して手数料を得たものだが、動機は明らかではない。他方、B&Nの NookとE-Book販売には関心を示したこともなかった。「E-Bookは嫌いというわけではない。ただ売る機会がなかっただけだ。」と語っているが、要するに「書店体験」のスペシャリストほど、「本」そのものには無関心だったのかも知れない。
英国も米国も、豪華船タイタニック号には「デジタル」がなかった。
いずれにしてもドーント氏とそのスタッフのビジネスは「書店あって本なし」と感じられるほど「書店と書店員と買い物好き」に愛されて、そのことによって英国での書店ビジネスでカリスマ的な名声を博していたのだが、図らずもB&Nのトップに指名されたことで、米国式書店ビジネスではE-Bookなしで書店ビジネスは成り立たないことが(投資ファンドにも)分かったのだと思われる。タイタニック号には十分な救命ボートがなく、乗員も操作に不慣れ、という状況だ。旧世代の経営者は概して「システム」という発想が薄い。だから「システム崩壊」は容易に起こるのだ。
いずれにせよ、WaterstonesはE-Bookビジネスの経験をもたないまま、E-Book販売に乗り出すほかはなくなり、B&Nは瀕死の状態にあったNook事業を再始動することになった。どちらも最悪の状態からの脱出である。成功の可能性は低いが、出版社と投資関係者には「書店」という文化財を守っていただくことを期待してやまない。◆ (鎌田、06/18/2020)