「版の複製」を基本とする伝統出版の宿命は、いうまでもないが基本的に製造業である。情報という非定型な価値を扱いながら、製造業の栄光と悲惨を背負う。ボニエ社の経営陣は Bookbeat のチームに一つの課題を与えた。「スケーラブル」であること、つまり「自在性」である。デジタルの本質を表現するのにこれほど適切な課題はない。
デジタル時代の「スケーラビリティ」
出版社は「帯に短く襷に長い」在庫の世界で苦労してきた。顧客需要に対する書店と決済の非効率である。出版社自身がスケーラブルであるためには、読者との距離を最短化・最適化するしかない。デジタルはその「最終的解決」を理論的に可能としたが、それによって「版」の使命をも基本的に終えてしまった。Web時代の出版はスケール問題を創造的方法(スケーラブルに)で顧客に対して解決しなければならない。店舗・在庫・配信・決済を同時に解決するのでなければ、他者(たとえばアマゾン)への依存と同じことになる。
デジタルが大きな可能性を意味することは、スウェーデンが生んだ異色のミステリ作家、スティーグ・ラーション (1954-2004) が「ミレニアム」3部作シリーズを全世界で1億冊あまりを売った実績が示している。世紀末に『ハリー・ポッター』、『ハンガー・ゲーム』とメガ・ヒットが続いたことは、Web時代の出版のスケーラビリティは、それまでのマスメディア時代の映画のスケールを軽く超える金銭価値やグローバル性を備えていることを実証した。
アマゾンはその自在性の幅を広げてきた。消費者(読者)の多様性をデータとして収めることでマス・マーケティングとマイクロ・マーケティングの両方に対応する。アマゾンに対抗するためには、「コンテンツ/読者」の「ニーズ」に対応する、別次元のスケーラビリティを備える必要がある。しかも物理的スケールを超えたものでなければならない。Bookbeatは版の販売の制約を超えた定額制(サブスクリプション)の利便性によってそれを超えた。これは購読者の「満足/価値」を計測・確認することで確認する。つづく ◆ (鎌田、06/11/2020)