電子書籍取次のメディアドゥは7月16日、アマゾンAudibleへのオーディオブック・コンテンツの提供を通じ同分野に本格的に進出することを明らかにした。出版社に対して音源制作の実務と費用を支援するとしている。文字/音声にまたがる出版プラットフォーマーの登場は国際的なトレンドだが、日本では最初の一歩ということになった。
Audible通じて音源出版サービスへ
メディアドゥは、デジタルサービスのメディアドゥ社 (1999) と出版デジタル機構 (2017)を背景に、主として書籍コンテンツの配信プラットフォーム事業を拡大してきた。一部上場(情報・通信)で2020年2月には売上高658億円あまりと発表されている。同社の存在は海外で注目されており、改めて「ハイブリッド・プラットフォーマー」となったことも違和感はない。
しかし、日本では出版=文字=印刷の歴史が長かったことから、改めて音声出版の意味を確認する必要があるだろう。そもそもオーディオブックが最初米国で、次いで欧州で急成長を遂げ、むしろE-Bookと並ぶ存在となった。このことは音声出版が文字を凌ぐ可能性が十分にあることを示している。これは出版の「地殻変動」を意味する。当面は、紙・活字・印刷本というプロセスを前提にして、音源制作・出版という後工程が別に生まれることで始まるだろう。
デジタル/オーディオが意味すること
本誌の読者はご承知のことだと思うが、出版のデジタル化はオンライン・ストアで始まったが、E-Book配信で終わらず、本を中心とした「コマース」の拡大、表現領域の拡大へと進んでいる。それは顧客マーケティングの連携を背景にしているだけに、出版ビジネスの再編を避けて通れない。しかし、独立性が強い伝統的ビジネスがそれを忌避したことは当然で、日本ではその通りの結果となった。
メディアドゥは在来出版のためのデジタル・サービスとしてきたが、同様の経緯で「音源出版」のサービスを加えることになった。オトバンク (audiobook.jp)という専門サービスがあるが、メディアドゥがサービスを拡大したのは活字出版社の需要だろう。しかし、それでは終わらない。理由は以下のようなものがある。
- コンテンツによって表現の可能性(文字/音声の商品性)が異なる。
- 最適な制作プロセスとマーケティングの体制はコンテンツによって異なる。
- にもかかわらず、「読者(ユーザー)」と市場は共通している。
- AIによって、コンテンツの変換・連携共通性の意味はさらに高まる。
- コンテンツ、制作、マーケティングの同期、統合化へのニーズが高まる。
これらは将来の可能性ではなく、最も戦略的には、アマゾンと中国のメディア/テクノロジー企業で現実に進められている。つまりメディアドゥが期せずして、音声出版を通して、Webメディアの最もクリティカルな領域に足を踏み入れたことになる。→つづく ◆ (鎌田、07/29/2020)