米国出版社協会(AAP)は9月10日、今年7月度の出版物統計を発表し、20年前半 (01-07) のコロナ禍の被災を受けた前年売上が、総額18億ドル、9.4%減となったことを明らかにした。逆にE-Bookが急伸しており、少なくとも、5年あまり続いたデジタルの「冬眠」は終わり、今後は出版の未来がそこに懸っていることは明確になった。
デジタルが25%上昇して価値が価値倍増
7月のハードカバー売上は2.5億ドルあまりで、前年同月比 47%増とよいものだったが、ペーパーバックは-0.2と前年並み、マスマーケット版も1.1%減と前年同様だった。注目を惹いたのは、E-Book (25%)とオーディオ (24.0%)が、合計2億4,180ドルとなったことである。これは、デジタルが紙の合計(4.57億ドル)の半分を超えたことを意味する。E-Bookの低迷はコロナを期に脱し、マイナス5%台に落ちている紙と並ぶことも現実的だ。いや出版社にとっては、むしろそれが目標となったと考えたほうがいい。
影響の全容が判明するのは年末以降のことになるが、サプライ・チェーンの不安が消えないとすると、印刷本の縮小は、デジタルの急伸をもたらすほかはない。米国の出版/書店ビジネスは、新刊・ハードカバーがいわば「先鋒」で主力である。伝統的に利益率の高いこの市場を守ることが、大手を中心とした出版社の戦略で、その他はないと言ってもいい。
コロナ禍「最終兵器」の凍結解除
Kindle登場(2007年12月)以来、10年以上の価格戦争は、ほぼここに集中してきた。過去5年あまりのE-Bookの販売不振は、出版社の高価格政策によるもので、その結果、著者はKDPとアマゾン出版へ移行してきたことで、この「冬眠」はいずれ終わると筆者は考えてきたが、「本」の呪力は強かった。大出版社もアマゾンが開拓した2つのオンライン(オーディオと宅配)が支えるので、しだいに書店からも関心が遠ざかってきていたほどだ。
「ロックダウン」によって、出版社にとって無用扱いされてきたE-Bookの価格は市場を見て低下を始め、まもなく売上も顕著に増加してきた。このままでは2020年の数字はデジタルの売上が出版社を支えることになるだろう。言うまでもなく、印刷本は都市の流通インフラの影響を受けやすく、この脆弱性が投資を落ち込ませるだろう。ワクチンの成功を祈っているトランプ大統領ではないが、在来出版の運命もワクチンにかかっている。しかし、出版社の戦略は、デジタルを中心とするものに転換せざるを得ない。それはどんなものだろうか。◆(鎌田、09/17/2019)