米国出版社協会(AAP)は、小売市場の混乱が続いた8月の売上が、前年同月比0.3%増を確保したことを伝えた。これはデジタルの貢献が紙のロスを補った結果だが、本の市場を前年並み+まで押上げたことは大健闘と言えるだろう。厳しい都市・社会環境を考えると、嵐の中で消費者が本から離れなかったことは、「出版の明日」を落ち着いて考える余裕を得られる。
「ゼロ」からのスタートとなった出版
一般小売市場の状況からみて、AAPは「書店」よりもオンライン、E-Book市場の数字を強調することを選んだ。これは正しい判断だと思われる。消費者が果たしてこの最悪の時代にも本を買ってくれるのかが最重要で、アクセスの安全すら確保できない店頭の数字はこの際、二の次となるからである。そして出版社は読者と著者への本質的役割を果たせた。ロジスティクスを含めたマーケティング戦略は再検討が必要だろうが、どうすべきかはかなり見えていたからだ。グラウンド・ゼロのような状態だが、ここからの再スタートを確認する機会と考えれば、重い意味を持つ。
コロナ禍は、出版の置かれている位置を関係者に等しく再認識させた意味があったことは間違いないようだ。私たちは、あまりに多くの「事実」を短期間で学ばせられ、しかも整理する暇もないまに、いきなり最高・不動であった文明的メディアとの付合いについての決断を迫られているようだ。
出版の価値とアマゾンの安全網
紙の本は残るが、ビジネスとしての持続性を保障する利益を確保することはより困難になり、デジタルを中心としたモデルを積極的に考えるだろう。印刷・製本とロジスティクスも同様だ。新刊、販売を主の軸として前提にすることが困難になることは、かねて予想されていたが、制作・流通の「買取保証」が出版の前提になると、「出版」の風景は一変することになる。伝統的に「商品としての紙の本の一体性」を前提とせずに、出版をどう続けるかという問題に答え続けることになるだろう。
この問題は、アマゾンによって一貫して取組まれてきた。コロナのような「カタストロフィ」が出版の断絶を招く恐れは、アマゾンが最も懸念してきたことであり、幸いにして、著者と読者の間の選択肢はアマゾンのビジネス/ネットワークが「セーフティ・ネット」として構築されてきた。アマゾンは、そのビジネスモデルの中核である出版を社会的ネットワークとして対応している。出版者としては、この「安全網」をいつ、どのように利用するかという選択肢を、いつ、どのように使うかという判断が許されることになる。◆ (鎌田、10/15/2020)