デジタルへの転換は、ビジネスの価値観を「版」の複製による販売利益率から、読書価値へと転換させている。このプロセスはどのように進むだろうか。Bookwireは、フランクフルト・ブックフェア(FBF)に向けたドイツの消費者調査レポートを発表し、市場の焦点がオーディオブック、E-Book、そして「消費者の関心」へのバトルに向けられていると述べた。これは伝統的な出版が書籍の「販売」に向けられていたことと対比して、「販売」より「関心」に転換したことを強調したものである。
本の価格問題と「社会的解決」
出版の社会性は、歴史的に書物を通した文字の影響力を意味してきた。グーテンベルク以降は、印刷・複製を可能とする「版」が尺度となり、それが影響力を代替した。500年以上にわたって、販売(部数、価格)は出版ビジネスの単位であったのだが、「書籍(ブック)」という、内容や価値において多様性の大きい商品に「価格」という工業的な単位がつけられたのは驚くべきことで、これが近代における商業的成功の理由とされる。近代を発祥とする「ブック・フェア」は、コンテンツ・商品・価格・貨幣が、大陸的規模で流通可能になったことを示したものだ。
そして、すべて情報として流通・交換される今のWeb(デジタル)時代に、より合理的な交換方法が追求されるようになったのは当然だろう。かつて交換において「印刷紙幣」が「現金」を代替したように、E-Bookが印刷冊子を代替すると考えられるようになってきた、ということだ。ただし、それは等価とはみなされない。消費者によって、物理的性質においては「印刷冊子」形態に優位が認められているからだ。しかし、コロナ以後状況は変わった。
ドイツで、出版において「関心」が主導的要因と認められたことは、「関心」が市場をリードする経済的価値として意味を持ち、E-Book、A-Bookへと転換可能であるのに対し、印刷本は「つぶしが利かない」と思われ始めたということである。「関心」は、そのコンテンツを、人が知っている限りにおいて、「意味」を持つということだ。つまり、本にはもともと「定価」などはなく、あるのは変動する「意味」という相対的なものでしかない。→(2)へ続く ◆ (鎌田、10/22/2020)