11月25日、米国サイモン&シュスター(S&S)社の売却が、買手となるペンギン・ランダムハウス(PRH)から発表された。金額は22億ドルで、当局の承認を経て、21年早々にも売手のメディア企業 ViacomCBSから譲渡の手続きに移る。それまでの期間、S&Sは現体制の下で通常の業務を続ける。PRHのマルクス・ドーレ会長は、S&S社の社員と著者に対して、事業の継続を約束している。
何が取引されたのか
この時期に世界最大の出版社の巨大合併は、相当な時間をかけて予定され、実現したもので、通常のメディア・ビジネス上のイベントではなく、世界的な制度再編と関係がある。つまり伝統的な米国中心の大手体制の終焉を意味する。また「生きた出版=農地」の売買ではなく、20世紀終わりに開発され、コンテンツとして(再)商品化され、評価を得て「デジタル化」された形で残っていた「版権」をめぐる線引きを意味する。
そして、評価額22億ドルという版権は、印刷・複製されるものとしてでなく、それ以外の、主としてデジタル化、オーディオ化、その他の再利用権を想定していると思われる。いずれにしても印刷物の形として流通されるものではないのだ。
「デジタル」な著作権は
こうした扱いをしなければ、版権コンテンツは値が付きにくいからである。それというのも、伝統的な版権は「印刷物」への再現を前提としており、復刻するにも物理的な「本」としての複製である。これは「資産」性を訴求する版の原則だが、デジタルでは取扱いが困難である。
逆に、PRHが一括で買い上げたことで、それは類似著作物の場合の参照価格として提示することが可能になる。PRHプライスは業界の参考標準となり、今後の指標として利用されるだろう。これでデジタル化で悩むことは圧倒的に減るはずだ。音楽著作権の売買の類推でもいえる。
「版権」の呪い
在来の本が継続的に生産されるには、書店流通本の価値に影響を与えてはならない。例えば、PRHのシリーズには、デジタル化に適したタイトルは非常に多いが、書店流通に依存してきた出版社ほど、版に手を触れることは難しい。もちろん、新しいコンテンツを新しい権利でつくればよいのだが、どうしても影響は免れなかった。
PRHとSSの今回のビジネスは歴史的な意味があり、これまでの出版の不振を一気に挽回するだろう。もちろん、その余慶は中国に及ぶ。 ◆ (鎌田、11/25/2020)
参考記事
- https://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/industry-news/industry-deals/article/85004-bertelsmann-to-buy-s-s-for-2-2-billion.html Germany’s B, By Jim Milliot, Publishers Weekly, 11/25/2020
- Germany’s Bertelsmann To Buy Simon & Schuster for US$2.175 Billion
, Simon’s Karp: A Closing Expected 2021, By by Porter Anderson, Publishing Perspectives, 11/25/2020
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