アマゾンは、KindleとKindle Fireタブレットのオーナー向けに提供してきた”コンテンツ貸出プログラム "KOLL"の提供を、2021年1月4日で終了することを「静かに」発表した。ユーザーの貸出記録などはそのまま利用できる。KOLLは11年末からAmazon Primeの名称で試験的に開始され、数年後の Kindle Unlimitedのパイオニアとなった。
Kindle Unlimitedを鍛えたアマゾンKOLL
PrimeはFireに合わせた貸出プログラム、その後のサブスクリプション・モデルの試行版ということになるだろう。今でこそ定額は当たり前だが、当時の「出版界」では、いきなりE-Book貸本は早すぎるという懸念があった。もちろん本番は定額(有料貸出)だが、最初からこれでは、まだ「単品販売・印刷本」を基準としている出版社、書店、図書館に衝撃があるのではないかと懸念したのだろう。
こうした「鈍行」主義は、消費者の時間感覚ではない、長期在勤する職場である「出版界」の感覚だろう。アマゾンは、ガジェットではなく消費者サービスの、最も遅い時間をベースに置いている。これがサブスクの実験台だったのは、KOLLが著者のための多目的体験の「砂場」という性格があり、また子供のための安全な砂場 (sandbox) に近いものと考えたからだ。
Kindle Unlimited(KU)のような環境を多様なユーザーに提供し、共有するのは、ある程度のリスクが伴う。出版は「実験に向かない」が、ある程度の「ロールプレイイング」性がなければ、トレーニングとしても面白くない。「サンドバック」は、IT(主にセキュリティ)ビジネスで使われている用語だが、たぶん今後も利用が拡大するだろう。
ダイナミックな実験・練習場
KOLLの「貸出図書室」とUnlimited (KU)の距離は遠く、つまり多くの実験を行い、著者・タイトル・読者の、主としてビヘイビアやUXに関するデータを集積し、それによって、著者・出版社と読者の満足を得るために有効な(ドラフト)ポリシーを設定するのに役立ったと思われる。こうしたことは、サービス稼働中の変更は、より困難となるからである。アマゾンはとくにKENPCや「読み放題」「不良ユーザー問題」に関して、数度にわたる試行錯誤を経験しているが、とくに著者サービスは高く評価され、年間約3億ドルの支払実績を達成している。ユーザーの読書実績、著者の収入貢献は出版社を優に凌ぐものだ。
著者への印税支払額は、読者の利用実績=仕入実績でもあり、当初はインディーズ著者の「囲い込み」という悪評があったが、そうでなかったことは、すでに証明された。E-Book出版は(まじめなものであれば)貸本でも儲かるからだ。今後は法人サービスのベースにもなっていくと思われる。KOLLは貸本サービスの実験サイトであると筆者も考えていたが、すでにE-Bookプラットフォームの土台となっている。◆ (鎌田、11/06/2020)