グーテンベルク出版は、2020年の「パンデミック」を機会に、出版における中心的な役割を終えた。その後の予想はつかないが、1980年代以前のような繁栄期に復活することはあり得ない。「印刷・製本」モデルは、デジタルによって延命を救われた形になったものの、当分の間、コストとリスクの大きな事業として残った。空白と挑戦の世紀は唐突に始まったのである。
はじめに:2020年代へのアプローチ
欧米では、デジタルを前提とした(あるいは書店ネットワークを前提としない)出版は、すでに始まってしまった。それまでのプラットフォームは、事実上、オンライン上のものへと移行し、(1)オーディオブック、(2)サブスクリプション、(3)E-Book以外は、非実用的な領域の印刷本へと追い込まれている。体制がとれているのはアマゾンである。新しい時代は、誰もが思いつかない状態でスタートした。
いつかは迎えるはずのデジタルは、こうした状態で始まった。出版にとって「新しい時代」というものは「変化」という以外になく、可能な状態からスタートするしかない。本誌では、読者の皆様とともに2021年を迎えるにあたって、過去から未来へとつながる<本・読者・著者>の関係という、<流れとしての出版>の視点を明確にしていこうと思う。まず、欧米と中国での動きを概観して、それらとの連関という形で始まりそうな日本の市場をみていきたい。
欧米市場のリスタート
旧出版の再結集は、欧米の大出版グループを中心に成立する。デジタル版権のブランド、サブスクリプション、オーディエンスの管理だけで、それなりの「威容」なものとなるからで、国際的なブランドはむしろできやすいだろう。しかしそれらは、出版をリードするものでは必ずしもなく、ブランドとポートフォリオの上に浮いているだけかもしれない。
それよりも重要なことは、クリエイターを中心に、読者・オーディエンスの「関係」がどのような更新されていくかということであろう。メディアやネットワークは「泡」のようなものであることは、よく知られている。泡はネットワークやプラットフォームに回収される。残るものを手にするためには、自ら残らなければならない。出版の意思と維持を共有することである。出版には誰でも関われそうなこの世界に残る/存在するのは、「関係」の中で意思と能力を認められたものだろう。
出版の新しい機会は、「版」とそれに関連した(しかしユーザーにフォーカスした)メディアから始まる可能性が強い。欧米でオーディオブックがヒットしたのは、もちろんコンテンツがしっかりしており、可能性が多く残っていたためである。「ゼロ」から発見できる可能性は多くない。しかし、米国におけるオーディオの市場も、20年あまりの間に確実なメディア、ストア、顧客、マーケティングなどを築いていった。
日本のオーディオブック市場は、数年かけて新たに形成されるだろう。アマゾンが中心となるか、あるいはWattpad、北欧勢なども展開するか、21世紀の出版の国際化は、かつてとは比較にならない。(つづく)
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