Amazonは12月30日、米国ポッドキャスト・ラジオのスタートアップ Wondery を買収し、同社Musicグループに加えたことを発表した。アマゾンはすでにインドなどでポッドキャスト放送を提供しているが、音声出版への3億ドルという投資は、高度に戦略的なものであることを示している。Wonderyは創業4年目ほどの独立系人気ステーションで、フィクションやミステリのブック・チャンネルとして関心を集めている。
ポッドキャストで3億ドルの大型買収:本は映画より…
この発表に際しては、Wonderyを買うのはどこか、「アップルやソニー」などの社名をニューヨーク
などの有名紙に流しておいて、当てさせるといった細かいテを使った。直前に発表された価格は「億ドル」で、ポッドキャストという新メディアのブランドとしてはかなりなものだ。しかし、筆者が注目したのは、創業者のエルナン・ロペスCEOが、1月15日で同社を去って、その座をスタジオ・プロデューサーのジェン・サージェントCOO(写真右)に譲ったことよりも、アマゾンが敢えてダークで力強いトーンの「ミステリー系」であるWonderyを選んだことだった。
Wonderyは2016年に、20th Century Fox社の支援によって創業。Fox系の映像スタジオと見られていたが、3年あまりでポッドキャスト業界のトップ・ファイブに進出し、そこから長編オーディオブックに転換した。
アマゾンはストリーミング映像から映画館まで幅広く手掛けているが、「映像」に劣らず、Web出版モデルとして「本」とポッドキャストの将来性が大きいとみて、Wonderyを買収したと見られる。この判断は歴史的なものとなるだろう。
WonderyはSpotifyの対抗と言われているが、アマゾンにとっての位置付けは、「アマゾン出版」系列のミステリ系ブランドであると思われる。中でも「社会性=商業性」によって評価されるブランドということだろう。
商業性の定義は難しいが、ふつうの「面白くて為になる」という以上に、具体的な社会性を訴求するということだ。「為になる」には読者、著者、社会に評価されることだが、出版が「不要不急」のギリギリを経験する今の時代にあっては、'wonder' が追求する世界は、フォーマットやデリバリー、マーケティング、ユーザー体験、などを意識しているようだ。
Wonderyは音楽サービスのAmazon Musicのグループに入るが、「音声出版」ブランドとしての独自性を明確にしている。アマゾングループのオーディオブックのAudibleは、廉価版のAudible Plusもリリースし多様化しているが、本来的にはリテイラーであり「出版社」ではないので、いわば、ワンダリーは企画制作から「個性」を訴求しようとしたいのだ。伝統的出版が、苦難や栄光の歴史を社会と共有することで身に付けることが出来るオーラを、アマゾンは目ざしている。
「音声出版社」としてのアマゾン
'Wondery'が一般的なフィクションやミステリのブック・チャンネルと異なるのは、'Criminal' , 'True Story' など、特別な(ある意味でキケンな)1920年代的な雰囲気を漂わせていることだ。つまり、パンデミックとともに21世紀世界に広がった、「ダークな」空気にもかかわらず生きる力を感じさせる力を発散させるキャラクターを送るスタッフや製作力に期待するということだ。これは「次の時代」を予感し、ともに「成長を加速する」ことを意味する。
ワンダリーのプロモーションは「真実」を強調してきた。言うまでもなく「フェイク」の時代の真実は、軽く、脆いものではない。読者の強い共感を期待できるものとなるはずだ。これまでの「ノンフィクション・タイプ」のフィクション・ドラマの中でもとくに "immersive" なものを打ち出してくるはずだ。出版社としてのアマゾンは、読者との共感を強く求めている。これまで平均以上のスタッフでふつうの大出版社以上のパフォーマンスを稼いできたアマゾンは、「圧倒的」な記憶を歴史に刻むつもりだろう。その際の出版は、記念すべきオーディオ・フィクションとなる。
歴史を創造する…
'True Story' ジャンルの企画は、ノン・フィクションの素材からライター、マーケティングなどでもアイデアが生まれるだろう。オーディオ、E-Book、AI(ライブラリ化)などでの企画・開発が期待される。逆に言えば、一般の出版社も「歴史創造プロジェクト」が始められるということだ。出版が他のビジネスと違うところは「社会性」であり「表現」「共有」「共感」によってその創造を増幅できることだ。次期副大統領の写真を使っているところなど、Wonderyが、渋いフィクションだけを狙っているものではない、十分に「センセーショナル」な力を狙っていると思われる。
20世紀の活字出版は、音声をホームグラウンドとし、ラジオ・メディアを席巻してペーパーバックを通じて20世紀の出版を開拓した。筆者の注目するところは、「ペーパーバック」の復活である。ポッドキャストは「音声」だけのものではないと思われる。◆ (鎌田、01/06/2020)
参考記事
- Wondery Launches Its Own Podcast App, Aiming to Drive Up Subscription, By Todd Spangler, Variety, 01/02/2020
https://wondery.com/ - Amazon acquires podcast network Wondery, Anthony Ha, Tech Crunch, 12/31/2020
https://techcrunch.com/2020/12/30/amazon-acquires-podcast-network-wondery/ - アマゾンが米国で第4位のポッドキャストネットワークWonderyを買収
Tech Crunch Japan, 2020年12月31日 - Amazon Music adds podcasts, including its own original shows, by Sarah Perez, Tech Crunch, 09/17/2020
- AmazonBuys Wondery as Podcasting Race Continues, By By Lauren Hirsch, New York Times, 12/30/2020l