電子コンテンツ・サービスを提供しているメディアドゥ(株)の子会社メディアドゥ・インターナショナルは2月1日、米国のNetGalleyとその親会社Quality Solutions/Firebrand Technologiesの全株式取得を発表した。昨年末(12月21日)にNG社は日本の出版社を含む顧客情報がハッキング被害を受けたことを発表していた。詳細は調査中だが、ND社の買収によっても今後のサービスに変更はないとみられる。[全文=♥会員]
日本向けの業務は無キズで存続
Netgalleyは、ゲラの管理業務を仕切っていたが、被害に遭ったのはユーザー登録情報の一部で、コンテンツ情報、個人情報などは確認されていない。日本では、メディアドゥが代理店となり、利用料金は無料なこともあって、書店や図書館関係者に計3000あまりの会員を擁し、かなりの人気を得ている。
米国のネットギャリー社は、2008年にFirebrand Technologiesが買収し、「ゲラ(校正紙刷)」データ配信サービスは好調だった。それ以前は、出版業界で「ゲラ刷」がかなりの部数(時に数千部)が作られており、それは膨大な数のプロフェッショナルが仕事に従事していたことになる。
非売品のゲラは、書店や雑誌、文筆家、書評者に配布され、出版社のコストと時間は膨大なものだったと思うが、このビジネスはそういうものだと教えられた。「読者」は本のプロフェッショナルとなり、様々な職種の仕事を見つけた。こうした活字=ゲラの文化は2世紀あまりに渡って成長を続け、20世紀にも終わりはないと思われたが、やはりゲラと活字には終わりはあった。
ネットギャリーもゲラ文化の最後を引き継いだものだ。2015年には米国の大手出版社からの仕事も入り、ヨーロッパや日本の出版社、書店も関心を示した。しかし、ゲラ/校正/プリンタというスタイル文化は、スクリーンに吸収された。旧出版文化は、大量生産時代が本格化する1960年代、あるいは限定生産本が書店での重要な商品であった時代のもので、「プロ」の価値が評価されるのは「紙」が相対的に高い時代だった。
しかし紙が安くなって「活字黄金時代」が来るかと思われたが、それは逆だったように思われる。2000年代には、なお膨大なライターの仕事があったが、その後有料の仕事は消えていった。2015年までには、ゲラを必要とする印刷物は徐々に縮小されていった。プリンタと赤ペンが最後の記憶となる。
ゲラは印刷時代栄光だった
日本と比べて、当時の米国は紙が安かったとしか思えなかったが、出版物を制作するために、もの凄い仕事がかけられ、やり直しされていたのだ。出版の立場からすれば、それらは出版人の「良心」であると考えられていた。仕組みは日本もあまり変わりないが、当時の米国の「出版産業」の規模やオフィスの雇用、物流は、想像を絶するほどのもので、日本のように狭い中での緊張感はないが、悠然かつ粛然とした雰囲気は、ほかのビジネスと同じく「ゲラ産業」も規模とプロセスの産業であった。いずれコンピュータに吸収されていくのは明らかだった。
日本では2017年に出版デジタル機構がネットギャリー日本版を開始した。出版社7社でスタート後、17社となり、書店関係者も含めさらに利用会員拡大と紹介されていた。「電子ゲラ」は、必ず「地味」だが必要とされる仕事で、出版社や書店の間で一定の仕事を持っていたと思われる。出版社は紙の本を必要とし、本を読んで評価する人によって機能する。米国の新刊は、年3回ほどのシーズンに分かれており、基本的に書店はそれぞれ必要部数を仕入れる。仕入責任者はタイトルと読者を意識するから、独立系書店の知識は相当なものだ。ネットギャリーは「ゲラ」とその情報を使えるプロがいる間は意味があると思われるが、ゲラに替るレイアウト、校正・編集の新しい付加価値の発見などがあるかとも思う。◆ (鎌田、02/12/2021)
参考記事
- NetGalley Bought by Japanese Company Media Do, By Mercy Pilkington, Good eReader, 02/08/2021
- Media Do International acquires Firebrand Technologies and NetGalley, LLC, 02/01/2021
- NetGalley was hacked and bandits made off with user accounts, By Michael Kozlowski, GoodeReader, 12/24/2020
- 「NetGalleyへの不正アクセスに関するお詫びとお知らせ」
2021年2月9日更新, NetGalley Support - 出版デジタル機構、紙書籍のWEB販促ツールNetGalley(ネットギャリー)日本版のサービスを開始、2017年10月17日ニュースリリース
2021年2月9日現在、NetGalleyの会員数は約7,500名、うち3,400名の一般読者(ネットのインフルエンサーなど)を除くと残りは全て書店、図書館、マスメディア、教育関係者です。
メディアドゥのFirebrand Group買収には、NetGalleyの他に、Firebrand Technologiesが持つ出版社向け基幹システム(ERP)とそのノウハウを入手したいという意図があります。いずれも短期的には日本の出版「業界」に、長期的には日本の出版「界」に必要なものと考えるからです。
新名様
最新のコメント/情報を有難うございます。Firebrand Technologies (FT)のテクノロジーは「ゲラ」と比べて、はるかに大きな可能性を持っていると考えており、「読者」とコンテンツ・サービス=ニーズを発見されると思います。
重要なことは、国際的な出版・読者のネットワークが維持・成長され、メタデータを中心に発展するということを、今後も期待しております。 鎌田