Storytelのヨナス・テランダーCEOは、スウェーデン出版協会の統計を受けて、2020年には書籍市場全体が8.7%増加し、購読が32.3%増加し、フォーマットとしてのオーディオブックがスウェーデンの書籍販売全体の57%、フィクション販売全体の90%を占めたと述べている。2020年にオーディオブックの売上が2倍になったフィンランドの同様の軌跡にも注目し、オーディオブックは現在フィンランドの書籍市場の20%を占めていると述べた。
読者から見て本は「足りない」し「高い」
21世紀まで、出版社や書店は本が十分に売れないことを気にしていた。一方で読者は十分に買えないことを不満に思っていた。つまり価格の不一致だ。両者が一致する線は紙の本では出ない。図書館では利用に制限がある。そこで思い切って、デジタルでオーディオを加えて定額制にしたら、読者は増え、販売も利益も成長を始めた。
数か量かという「グーテンベルクの罠」が読者の成長を阻んでいたのだ。2020年は「サブスク」の見直しの契機となったことは間違いない。発行部数を気にして発行を断念することは無意味で、デジタルとサブスクを効果的に使い、少なくとも、出版機会を高める選択肢を広げる方が良いだろう。読者のニーズは、紙以外にいくつかのパターンに分かれることが明らかになった。「サブスク」は確実にその一つであり、出版を量的、質的に成長拡大するモデルだ。
量にも質にも多様な機会がある
消費者は、「多くの本」を求めたのだ。なぜなら、ノン・フィクションに関しては、少なからぬ本が改訂を必要としているが、まだ出版社では改訂の作業に十分に取り掛かっていない。フィクションに関しては、SFなどで新しいトレンドが始まろうとしている。時代と世紀の変わり目は、出版にとっての変わり目となるイニシアティブが始まる可能性が十分にある。科学出版や教育出版を始めとして。
スウェ―デンの出版社は、サブスクリプションをベースに「世界出版」の構想を抱いているとしても不思議ではない。Web時代の出版は、読者と著者(オーディエンス)こそが「版」であり、そうした「版」は新しい出版のベースとなるからである。グーテンベルク出版は、一貫して「デフレ」モデルに傾斜してきた。中国が版本へのこだわりを捨てたのは、「世界」出版にはより大きい市場があるからだ。
本の需要の多様性が「高密度化」機会を生む
本のサイズや重量は、頭痛の種でもあるし、内容に相応しいものでもあった。多様性は拡大することはあっても収束することはない。解決は唯一つ、選択を禁止することだといった人がいたが、デジタルは最適化のパターンを増やせる。それがStorytelのアプローチである。
市場の拡大は、版の時代には考えられなかったが、グーテンベルク出版の全盛時代が過ぎた今、人間を本に近づけるのでなく、本(の仕様)をローカルニーズに合わせる合理的な最適化で拡大することは可能だ。
Storytelは、出版における機会が加速度的に増えていることを強い説得力で証明している。仕事にとって有用であれば、必ずと言ってよいほど人は本を買う。購入を躊躇させるものは、役に立つかどうか不明、予算を超える、といった理由だ。サブスクリプションは、そうした「読者」を吸収する可能性が高い。書店で立ち読みし、オーディオブックでサブスクを利用する人は、音読の価値を知り、「併読」を必要とする。そうしたユーザーが少なくないことが明らかになった。北欧の読者は、北米と比べて、本を「使う」ユーザーの比率が高い。英語読書だけでは不十分な可能性があることを自覚しているとも考えられている。
世界最大の出版社ベルテルスマン社のCEOは、これからの出版の課題は「ダイバーシティ」であると述べた。多様性は「規模」に拡大を通じるということだが、これは奇しくもアマゾンや中国のアプローチに通じる。自ら「非対称」となれば「生きた市場」は縮小される、ネットはユーザーに接近するために使う、ということだ。デジタル出版は多様性で豊かなものとなる。◆ (鎌田、04/15/2021)