2020-21年の出版は、多くの「本」から「重さ」が消えたことで記憶されるだろう。もちろん、物理的なものは蒸発も消失もしたわけはないが、過去に経験した本との体験や心理的喪失は「重量」として相当なものだったろう。筆者も、自分の「喪失体験」を考え、回復の方法を皆さんと共有しようと思う。
無限を含む危険(?)なビジネス
20世紀後半、米国を中心に文化的に大きな変動が生まれた。本と出版の発展に逆らうかのような「ストーリー・テリング:物語」の大流行である。神話学者のジョーゼフ・キャンベル、映画のスティーブン・スピルバーグ、そしてアップルのスティーブ・ジョブスが、物語をそれぞれのスタイルで語り、ビジネスマンから政治家まで人に聴いてもらうための話を磨いた。
Webの時代は、人を自己中心に追い込むところがある。人々はグーテンベルクの厳格なルールを忘れて、無限のストーリーを追ったと思う。Wattpadは、ユーザーのストーリーを自分のビジネスを旨く回転させることに成功した。
2000年代後半以降の「ストーリー・プラットフォーム」とソフトウェアの「サブスクリプション」も、かなり大きなイノベーションを見た。アマゾンは、人々の生活と消費の循環性をデジタルでコントロールするサイクルを確立した。それを契機にストーリーは21世紀のメディア・ビジネスの定番となっている。もちろん聖書から出発したグーテンベルク本は、背から扉まで厳密に設計されているが、時にストーリーはルールを外す。Web時代にはルールは外されることも多いだろう。
すでにストーリー・プラットフォームも10年以上の時代を経験した。冊子本と違ってWeb本はルールをいつも開発するという性格が強いものなので、先行出版社は学んでいくことになるだろう。
◆(→続く) (鎌田、05/27/2021)