今年の夏の北京の国際ブックフェア(BIBF)は2021年8月25-29日、スマート(ハイブリッド)という変則的な方式で行われることが発表された。つまり、対面式参加人員3万人規模のものとオンラインで実質2億人ということである。この形式は、昨年から5Gを導入した最先端のモバイル・イベントを並行して行い、実質的なコミュニケーション密度を確保する趣旨のものだ。ライブデビューを経て、今年本格的な5Gの効果をブックイベントの場で公開することが期待される。
出版貿易はハイブリッドで活況
夏のブックフェアは、教育やテクノロジー市場にフォーカスしたものが多く、中国も注力している。1980年代に始まったイギリスのBritish Educational Training and Technology Show (BETT)に注目し、主催者のBETTとの提携関係もあり、出版と産業、教育テクノロジーの観点から、大局的に見ている。中東やインドネシア市場にとっても、中国市場は重要だ。また中国は教育出版を英米で共同開発する意味も大きいとみている。
本が一般的な交易商品という以上の意味を持っていることは、中国でも近代以降に知られてきたと思われる。とくに「英国的出版観」から多くを学んだようだ。社会と文字の歴史には事欠かない中国だが、近代の出版が一種の「グーテンベルク・ビジネス」であり、その多面的な意味をビジネスとして知ったからである。文字と社会とビジネスを同一平面上の現象として理解するには、中国人は「書」について知り過ぎていたと思われる。
本とテクノロジー:「知道」
そう考えるしかないほど、20世紀以降の「ビジネス」の理解は異常に速い。とくに米国人からは速く多くを学んだことを筆者も知っている。おそらく、中国人は多数の言語と表記法から多くを学び、それを知る(「知道」)ことができたが、それは言語の複雑性を知っているためだろう。BETTのような仕組みは、国際的な教育や評価・表彰などの機能を持つと考えられる。中東の国際イベントでは英国人は公平を得て、そのことによってUAEなどの「市場主催国利益」をもたらしているからだ。
中国は版権においては知的(知的)所有権などでの優先原則を法制化しており、国際紛争を予め最小化している。国際イベントの主催国であるのは「(超法規的に)権利を確保」することを意味するが、中国は実質的に「商業的超法規性」を確保していることになる。
AIと知識の出版
米国は「国際的な市場」の仕組みを知っているが、それを守る力を示しているだろうか。中国から見て、国際的に最も公平と評価されるものは、米国に代表される「工業所有権保護法制」だが、これなどは、人材と制度まで導入して「中国化」に成功している。「資本主義的法制度」の合理性を認定していることを意味する。世界で最も先進的な著作権法制が、いつどこで発揮されるのか、筆者にも分からないが、TicTok事件がその最初の事例になるだろうと思っていた。結果は、米国政府による「事業差止め命令」を提訴をした分を扱ったものだが(米国政府の敗訴)、本件が司法的にどう判断されるかは、大きな意味を持つと思われる。
米国前大統領も政府弁護士も、国際的、司法的に何らかの意味を持っているとは思われないが、中国では法律的な条文精査などの準備作業は、AIシステムで行えるようにする研究が存在しているようだ。「中国のAI判事」の話は冗談ではなく、法律をプログラムであるとすれば(そうでないとする理由はないと思うが)、少なくともAIには本と本に書かれた文章を読解し、比較検討を多角的に行って、裁判官の要求に答えること(つまり学生の論文以上のもの)が可能である。人間と同等の知的水準のAIを、人間の目的のために使うことがそう遠くないかも知れない。重要なことは、人間には人間が書いた能力を「読解」あるいは「進化」に使うことができるということである。◆ (鎌田、06/10/2021)
参考記事
- China’s 1 billion internet users underpin the Beijing International Book Fair this year, by Mark Williams, The New Publishing Standards, 06/03/2021