本誌は通巻564号(年52号)を経ており、あまり実感を湧かないことも半端ではないが、それでもグーテンベルクの「記念」は軽いものではない。奇しくも2020年に、20世紀末にオーディオブックの発見したもう一つの出版空間はグーテンベルクに「銀河」を追加し多様化したといえる。グーテンベルクは単純なものではなかった。それはテクノロジーの転換点であり、文字の転換点であり、歴史の転換点とさえ言えそうだ。
Webの出版
『ハリー・ポッター』の初稿は、プロの編集者たちからは評価が低く、「古臭い」と酷評されていたと言われる。5年以上を費やした初稿が、最初から「新鮮さ」を評価されるかどうか、いかがなものか難しいというしかない。このストーリーテリングの評価は、SNSの初期ユーザーの「価値ある発見」と見られている。以後、「ストーリー」は長いほどよいとも言われるようになった。出版社にとっては、コンパクトで効率的なヒットが理想的だ。しかし結局は「ストーリー」が勝つということだ。いや本と文字の行くところ、声とドラマその他、詩もついてくるだろう。それらは「ストーリー」と文字とともにある。
読んでも書いても尽きない…本
かつてWebを前にした20世紀に、「ストーリー」は活字出版に大きな打撃を与えると筆者は考えた。しかし、そうした現象は起きず、ストーリーテリングのコンテンツプラットフォームであるWattpadなどは、もっぱらWordやラジオなどでの創作空間を広げていった。読者が目にしたのは「オーディオブック」「サブスクリプション」「ストーリー」「ICT」といった新しい形の本だ。そして、紙のみの出版は終わりにして欲しいということだったと思われる。
欧米では出版市場の拡大と同期させている。デジタル出版は「拡大のゲーム」であり、それを利用することが有利となる。英国のオーディオブック出版などは中国の英語出版と互いに利用している。しかも出版は、ますますゲーム化していくだろう。重要なことは、サブスクリプションで成功している北欧出版は、言語的不利を克服することに成功していることだ。◆ (鎌田、07/29/2021)